ぽすとさんへ(なぜディフェンシブ・高配当銘柄が選ばれるのか)

記事の要約

  1. ディフェンシブ銘柄や高配当銘柄を選定することについて、ぽすとさんは反論している。
  2. しかし、歴史的にみると、ディフェンシブ銘柄や高配当銘柄は良い銘柄である。
  3. ただし、私は、別の理由から、ディフェンシブ銘柄や高配当銘柄が必ずしも優位であるかはわからないと考えている。

発端

Dの一族であるぽすとさんは、この記事でディフェンシブ銘柄や高配当銘柄の不利さを指摘しています。詳しくはリンク先で見てもらうとしましょう。

反論点

先ほどの記事の中で、ぽすとさんは次のように言います。
リスクを抑えるのにディフェンシブ銘柄や配当銘柄は有効ですが、逆に言うとリターンももちろん低いというのは当然ですよね。
そもそもなぜ配当銘柄・ディフェンシブ銘柄でリスクを抑える必要があるのか
ディフェンシブ銘柄や高配当銘柄で投資をする人と、純粋なインデックス投資を行う人の、一番の認識の違いはこの点にあります。

ディフェンシブ銘柄や高配当銘柄を投資する人は、リスクの割にリターンが高い(超過リターンがある)と考えているのです。

それを知るために、その根拠の最右翼であるジェレミー・シーゲルの『株式投資の未来』を見てみましょう。

シーゲル『株式投資の未来』

シーゲルの『株式投資の未来』では、ディフェンシブ銘柄――特にヘルスケアと生活必需品――のリターンが高いことが示されています。
S&P500の1957年~2003年の採用銘柄の平均リターンは年10.85%に対し、ヘルスケアセクターは年14.19%、生活必需品セクターは年13.36%です。(『株式投資の未来』p.57)

高配当銘柄についても、『株式投資の未来』では高リターンをたたき出していることが示されています。
S&P500の1957年~2003年のリターンが年11.18%だったのに対し、同時期のS&P10種(S&P内の大型株100種中配当利回り上位10銘柄)のリターンは年15.69%です。(『株式投資の未来』p.280)

S&P500の年リターンに差がありますが、これはおそらく「銘柄の平均リターン」と「指標全体の平均リターン」の違いと思われます。

このかなりの長期データで示されたリターン差が、セクター戦略(ディフェンシブ銘柄戦略)・高配当銘柄戦略を取る根拠となっています。

もちろん、これらの銘柄を採用する理由が、「下落相場への耐性や配当金が嬉しい」である人もいるのでしょうけれど、今後も、過去と同様に指標をアウトパフォームするということに賭けている、という人も多いと思われます。

つまり、ぽすとさんが指摘するデメリットよりも、過去の実績を優先しているということです。

ディフェンシブ銘柄のメリット

もう一つ、ディフェンシブ銘柄のメリットは、リスクの少なさの割にリターンが大きいことにあります。
教科書的な考えでは、投資家は、自らのリスク許容度を基準として、ポートフォリオの無リスク資産とリスク資産の配分を決めることになります。

つまり、想定されるリスクが高ければ、ポートフォリオ内のリスク資産に充てられるリスク資産は減ることになります。

また、教科書的には、大きなリスクに対しては、大きなリターンが存在することになっています。

しかし、インデックス投資の大家であるバートン・マルキールでさえ、実際の株式市場では、リスクとリターンが「平均的に」ですら一致していないことを認めているのです。
ユージン・ファーマとケネス・フレンチは、ニューヨーク、アメリカン、ナスダックの全上場株式を一九六三年から九〇年までの期間にわたるベータによって、一〇分位に分類した。(中略)基本的にこれらのグループ別ポートフォリオのリターンとベータの間には何の関係もなかったのだ。
バートン・マルキール
『ウォール街のランダムウォーカー』(kindle版 位置3812)
ベータの説明はリンク先の記事を読んでください。

つまり、低ベータ(ディフェンシブ銘柄)の株式だけにリスク資産を配分すれば、同じリスク許容度であっても、リスク資産を多く配分し、ポートフォリオ内のリターンを高めることができるのです。

ただし、マルキールはベータの測定方法の難しさなどを理由に、低ベータ戦略を推奨していないことは補足しておきます。

もちろん、配当を精神的な安定剤に使っているのであれば、冴えた銘柄選定の理由ではありませんが――しかし最悪の理由ではありません――ディフェンシブ銘柄や高配当銘柄に対して、明確な理由があって銘柄を選定している人はいる、ということです(例えばバフェット太郎さん)。

懸案点

ただし、私も次の理由からディフェンシブ銘柄や高配当銘柄が必ずしも優れているとは言えないと考えています。

高配当銘柄の優位性がなくなっている

リンク先の記事で示されているように、シーゲルが測定した期間に比べ、株主還元の方法として、自社株買いが盛んになったことなどから、高配当銘柄の優位性が崩れているということが考えられます。

他には、ETF間の比較で、VTI(全米株式)とVYM(全米高配当銘柄)を比較し、VTIのほうがリターンが高い、というちゅり男さんの記事を紹介しておきましょう。
さて、12年間の配当込みトータルリターンですが、VTIが+165.9%、VYMが+145.8%という数字が導き出されました。これをどう評価するかですが、12年間で20%程度のリターン差であればVYMはVTIによく追随していると私は思います。一方、2008年のリーマンショック時には、配当金を含めてもVTIとVYMの両者の最大ドローダウンは近似しており、VYMのディフェンシブさに期待している投資家にとっては残念な結果といえます。VTIとVYMはどちらが優れているか12年チャートを元に検討する

シーゲルの投資法があまりにも周知されてしまった

私はこれを最大の問題だと考えています。シーゲルの『株式投資』や『株式投資の未来』は、アクティブな長期株式投資を考える人であれば必読書に推されることも多い本であり、シーゲル自身も米国でも経済番組に良く出演する有名人です。

であれば、シーゲルの考えというのは、広く行きわたっていると考えるべきであり、機関投資家も裕福な個人投資家も、多くはシーゲルの考え方を知っていると言っていいでしょう。

つまり、高配当銘柄や、ヘルスケアセクターや生活必需品セクターは、シーゲルによってその優位性が浸透しすぎてしまったため、かつては見逃されていた優位性が、すでに株価に織り込まれてしまったのではないか? という懸念です。

もちろん、この記事でも示されているとおり、高配当戦略とは異なり、ヘルスケアセクターや生活必需品セクターの優位性は『株式投資の未来』が出版されてからも継続していることから、今後もその傾向が続くと考えることもできるでしょう。

まとめ

  1. 過去のデータでは、高配当銘柄や(ヘルスケアセクターなどの一部の)ディフェンシブ銘柄は長期にわたって指標をアウトパフォームしてきた。
  2. 過去のデータでは、リスク(ベータ値)とリターンは必ずしも比例していない。
  3. 最大の懸念は、これらの事実が周知されたことにより、株価に織り込まれることによって優位性が消滅することである。

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